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・2012年10月17日(水)

この地盤調査前日に依頼主へメールを送信していた。8月末に本格的に依頼を受けてからプランを提示していなかった。途中、調査報告はしていたものの、すでに1ヶ月半以上経過していたので、地盤調査の結果を待って全体の基本方針とプランを提案しますという内容のメールだった。調査を進めれば進めるほど、危険性が高い建物であり内外装のお化粧だけではすまされないと判断したので、慎重に計画を練っていますという内容。それに対して『スケジュールと予算も制約があるので別の業者にも見積もりを依頼しました』とのメールが今朝返信されてきた。

私の方は建物の不等沈下による健康被害などを話すばかりで、未来に希望を抱くオフィスデザインの話はしていない。また、予定している予算よりも大幅に上廻りそうだとも伝えていた。その進め方に不信感を持ったのかもしれない。たしかに、こちらも厳しい現実を目の当たりにしてその建築的外科的対応に終始していたのでいたしかたないだろうと思った。しかし、現実に目をつぶって、良いことばかりを並べることはできない。不等沈下に対する現実対応を検討しながら、オフィスデザインのお話も平行して行いますと返信して、渋谷の現場に向かうことにした。


・2012年10月23日(火)

不等沈下を認識してから、その改善方法をずっと探っていた。現場状況や改善する建物によって最良の対策方法は変わってくるだろう。

事例を調査するべく、不当沈下対策を行っている業者のサイトをくまなく探っていった。とある不等沈下矯正工事を行っているサイトで旧知の名前が出てきた。タニタハウジングウエアの谷田さんである。彼がそこの会社で自社工場の床の修正工事を行ってとても良かったとコメントしていたのだ。彼とはかれこれもう15年ほど前、一緒にエコロジカルなテーマでイベントに何度か参加したことがあった。

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彼は屋根材や雨樋の専門メーカーとして雨水利用を訴え、こちらは設計事務所としてエコロジカルなすまいを提案していた。左の写真は、1999年10月横浜の住宅展示場で行われたイベントの出展の様子である。「横浜。木・風・犬の店」(意味不明)として出展した。まあ、そんな感じでフェイスブック仲間でもあったので、早速その会社の担当者を教えてくださいとDMした。ほぼ15年ぶりにもかかわらず快諾してくれてコンタクトができた。その担当者に現場を確認してもらった。

不等沈下修正工事専門のその会社は、沈んでいるその建物の基礎下に現場発泡ウレタンを圧入し、そのウレタンのふくれあがる力で建物を持ち上げるというやり方が主力の会社だった。谷田さんの話も広い工場の中のコンクリート床が部分的に沈下してしまい困っていたけど、機械を動かさずに床を持ち上げることができたのでとても好都合だったと言っていた。機械の撤去再設置には費用と時間がかなりかかるのだ。今回の不等沈下にも適用可能だと大げさな工事にならずに修正できるのでは無いかと期待していた。しかし、現場を見たとたん担当者は、ウレタン注入には適さないですねとのこと。無筋のコンクリート基礎がその持ち上げる力に耐えられないだろうという判断。であれば、傾きを矯正する方法はどうかと相談すると、一般的な揚屋(あげや)をするしかないだろうと。基礎あるいは土台の下にジャッキを入れて、建物が水平垂直になるまで、あげてしまうというもの。その工事は自社で可能とのことなので、見積もりを依頼した。帰りがけ、ぼそり。「建物ってどんな建物でも傾いているんですよ。程度がひどいと住人が病気になるけど、そうでないとわからない場合が多いものです。とにかく今は震災の影響でこの業界とても忙しいので工事も2ヶ月以上先になってしまいます」と。

この日は、沈下修正工事業者現場案内のダブルヘッダーを予定していた。2番手は、私が本件で当初から細かい工事を依頼していたS工業。担当の土橋氏は、薬品注入土壌硬化の専門業者と揚屋の専門業者を連れてきた。それぞれの目で、専門的な意見を交換する。私はそれぞれの意見を俯瞰しながら、どう判断するかを模索していた。結局、基礎の耐力が小さいこと、不等沈下が今後も進むだろうこと、そのためにできることは何か、と総合的に検討していくと、ある方針が見えた。水ガラスを注入し地盤内部を固めてしまい、揚屋をする。その揚屋も基礎下から建物を持ち上げると基礎が破壊する恐れがあるので、基礎はそのままで土台から上を持ち上げて傾き修正後、あらためて基礎を作り直す。その方針が現実的だろうと判断した。

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依頼主の予算とスケジュールには限りがあるが、人の命を預かる以上、できることはやり尽くさなければならない。事故が起こってから「想定外だった」では済まされない。本件はある程度の地震が発生したら倒壊する危険性があるため、倒壊は想定内として計画しなければならない。今回の不等沈下に対し、手を打たずに臭いものに蓋をしてしまうと人災になるのだ。それぞれの見積もりと工事期間の提示を待つことにした。






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