いよいよ、計画地を踏査することになった。
事前の準備は整った。
ゴールデン・ウィークの後半から約1週間、本プロジェクトのために建て主と設計者が、合宿を行うことになった。
常々、私は「建て主になりきれるかどうかが、設計上一番のポイントである」と思っている。
建て主本人になりきり、思考を重ねることで、建て主が望んでいるものに近づけるのだ。
そのために一番いい方法は、寝食を共にすることだと思っていた。

しばらく、建て主と生活を共にすることで、見えてくる様々なものは、設計上の大きなヒントになる。
1回たかだか2〜3時間の打ち合わせを何度繰り返しても、真の生活感は見えてこないものである。
生活上のクセや価値観などは、打ち合わせだけでは、まったく見えてこない。
今回は、遠い場所でのプロジェクトだったおかげで、建て主との合宿という好機会に恵まれた。

建て主の生活感、人生観、嗜好性、どれをとっても人それぞれであり、それを包み込む生活空間もじつに様々になる。
それは、すまいに限ったことだけではない。
百貨店に行けば、同じアイテムの商品がテイスト別にこれでもかという具合に並んでいる。
自動車でも、ブランド、サイズ、型式、色などなど、様々な価値観に対応するべく現存している。
すまいは、それらに比べて、全体を構成するアイテムがけた外れに多い。
そのけた外れに多いアイテムを全て、機能、デザイン、コストのバランスをとりながら決め込んでいくのである。

最近では、それらの決定プロセスにおいて、「健康」というフィルターも重要になってきている。
住み手の健康はさることながら、地域社会の健康、地球環境の健康、などなど。
経済効率、維持管理のしやすさなどから、その「健康」を害する素材が蔓延している。
いまだにどこの現場でもみられる「オレンジ色の防腐剤」。
F2、F3といった「ホルムアルデヒドがんがんの合板」。
カビ大発生の原因になる「ビニールクロス」。
輸入建材の多用。
数え上げればきりがない。
うかつにそれらを使い、地球、社会の健康はさておき、住み手の健康までもむしばんでしまい、建てたはいいけどそこに住めないと言う被害者が日本中で続出している。

私のお客さんから聞いた話しである。
「合板の種類は何を使っていますか?」とある建設会社の営業マンに聞いた。
「むにゃむにゃ・・・」
「F0は使っていますか?」と更に加えた。
「はい!使っています!」とのこと。
その会社の現場に行ってみると、なんとF3が使用されていた。
営業マン曰く、本社としては「F0」を使うように指示しているが、現場が「F3」を勝手に使っているとの答えだったらしい。
その現場(建売)は、その合板を取り替えることもなく、売りに出されたようだった。
おそらく、住み始めると、夏場目がチカチカしてきて、頭が痛くなり、ついには呼吸困難になるだろう。
そして、それが家の材料に原因があると気づく人は、ほとんどいないだろう。

合板の「F0」と「F3」は、単なる一例である。
やはり、造り手側の常識として、あるいは誠意として、気が付く限り、非健康的なものは排除していかなければならない。
選択できるアイテムは、自動車などに比べて、けた外れに多いのである。
言い換えれば、排除していかなかればならないアイテムも多いということだ。

合宿で得られる建て主の価値観は、それらの決定プロセスに必ずや大きく影響することになるだろう。
ましてや、特殊解を導かなければならない今回のプロジェクト。
愛犬3頭とご夫妻の穏やかな暮らし。
自然志向ではない家人の山暮らし。
1200坪はあろうかという、ランドスケープ・デザイン的な計画地。

2002年5月4日、22:00頃、様々な思いを胸に秘めて、1200Kmの旅の終盤を迎え、福岡市内を走っていた。

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