合宿時、具体的に計画を進めるにあたり、次の点も浮き彫りになった。
現在のすまいの引き渡し時期と新居の完成時期がずれた場合、仮住まいを強いられるのである。
可能性は大きい。
仮に犬と同居ができる一軒家を8万/月で6ヶ月借りたと仮定しよう。
諸費用込みで、8万/月×11ヶ月=88万の出費である。
新築住み替えの場合は、当然発生するロス費用である。
必然的なロスとはいえ、ロスなのだ。
もったいない。あとに、何にも残らないのである。

はたと、ひらめいた。
森蔵家の場合、敷地が広大にある。
ロス費用分くらいで、仮住まいを造ってしまえたらいいのではないか。
本館が完成したら、その仮住まいは、「旅人の宿」や「カラオケハウス」にしてしまえばいいのだ。
88万円の予算でできるもには、限界があるが一時避難場所なのだ、割り切って造れば何とかなるだろう。
全体予算を預かっている我々としては、あまりにも楽天的な発想だが、本館+アネックスで構想を練ることにした。

1200坪の敷地をどのようにゾーニング(大まかな棲み分け)するかは、現地でおおよそ森蔵ご夫妻と決めてきた。
A〜Hまでの8区画のうち、気持ちよく生活できそうなのは、A〜Cの3区画ほど。
その他の5区画は、ヴュー・ガーデン、キッチン・ガーデン、フリスビー・ドック・ガーデン、アジリティ・ドック・ガーデンと私が勝手に決めた。

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A〜C3区画の具体的な検討が始まった。
添付写真にもあるように、A〜B間は0.60MほどBが高くなっている。
B〜C間はCが2.5Mほど高くなっている。
さらに3区画の周囲も高低差がある。
専門用語で、コンクリートなどの擁壁で造られていない場合は、その部分を「がけ」という。
当然ながら、がけの周辺は、補強するか建物の建築が規制される。
がけの影響範囲を敷地に落とすとおのずと本館+アネックスの配置が見えてきた。

区画ABの広い部分に本館、区画Cの狭い部分にアネックス。
平屋のコンセプトを生かすべく、区画間の2.5Mほどの高低差を無視してデッキでつなぐ。
本館は18坪ほど、アネックスは6坪ほどのコンパクトな内部空間。
しかし、その2棟をつなぐ20坪ほどのデッキを設けることで、空間に無限の広がりと可能性が見えた。
区画ABよりも2.5M高い区画Cに床レベルを合わせたので、本館は宙に浮くことになる。
それはそれでいいのである。
足を伸ばして、高床式にして解決した。

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常日頃、私が設計する上で大切にしている空間のひとつに、「ナイガイ、アイマイ空間」がある。
都市型環境の場合は、「屋上アウトドア空間」として、ネイチャー環境のなかではたびたび「ピロティ空間(高床式)」として、住空間に挿入する。
「屋上アウトドア空間」は都市に広がる屋根を大海原に見立て、「ピロティ空間」は雨でも濡れない森の中をイメージし、癒しの装置として大胆に入れ込むのである。
「ナイガイ、アイマイ空間」は、内外そして曖昧な空間のこと。
内部なのか外部なのか、内部であり外部である。
外部である敷地に内部空間を造り、さらに内部空間に外部空間を挿入する。
京都の坪庭に見られるように、昔から日本家屋は「ナイガイ、アイマイ空間」を手のひらの中で自然を楽しむ装置として大いに採用してきた。
雨が降り、風が吹き、雪が降り、花が咲く、そんな自然の息吹を五感で感じられるすまいはとっても素敵なすまいではないだろうか。

そんな装置を少しでも日常空間に取り入れたいと思っていた。
だから、本館は宙に浮いていいのであり、高床式がふさわしいのである。
無限の可能性を感じさせるデッキテラス、そして高床式の構成が、季節感あふれる「ナイガイ、アイマイ空間」として、コンパクトな内部空間を引き立ててくれるに違いない。
大まかな骨子は、3ヶ月間の熟成と合宿時のスパイスで、すんなり見えてきた。

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