今となっては贅沢なやりかた。昔はあたりまえだっただろう。自分の家を建てるために裏山から木を切り出す。南に面していたところは南側に、北に面していたところは北側に。
建材になってからでも生き続ける木に心を遣う。木だって生きている。建材になってもなじんだ近くの土地が一番だろう。
マクドナルドのハンバーガーに使われている牛肉がどこで飼育された牛かわからない。フィレOフィッシュの白身魚がなんなのかもわからない。それはそれでいいのである、価格と手軽さを買うのであるから。しかし、たまにはきちんとした食事をしたいと思ったときは材料を吟味するし、レストランだって選ぶだろう。魚港のそばの良心的でおいしいといわれる寿司屋はやはり地元のとれたてのネタをそろえる。チェーン店にはない料理する人の厳しい目が光っていてこそ美味しさも引き立つ。
すまいづくりも同じこと。価格と体裁、手軽さを選ぶのであれば、そのプロセスや手法は問わないだろう。しかし、せっかく一生に何度あるかわからない「我が家」のことである。手間暇かけて、いつくしみたいと思う人がいて当然である。そんな方には、是非プロ同志の現場に引き込んでしまうことにしている。木を育てる人、木を伐る人、つくる人、真剣な思いを戦わせている現場に引き込んでしまう。その現場に立ち会うことで、「我が家」を建てる人も、木を育てる人もみんな真剣になってくるのだ。また、それぞれの思いも一層深まってくるものだ。
近くの山に入って木を切り出してくるということの贅沢さは他にも理由がある。建材にするためには「伐り旬」を守りたい。関東近辺では、11月下旬から2月中旬ぐらいまで。
木々も冬には水分を落として冬ごもりをする。その時期が「伐り旬」である。伐り倒して、葉っぱを付けたまま1ヶ月から3ヶ月ほど山に放置しておく。すると、冬眠中といえども残っている水分が葉っぱから蒸発していく。それを待って山からおろすのだ。「伐り旬」は一年の1/4ほどの時期しかなく、その後も時間がかかる。よっぽど計画的に進めないとその時期に恵まれない。
本来は、そんな時期をみはからいながら2年から3年かけてじっくりつくっていくものだが、土地の融資がはじまったり、住宅金融公庫の期限があったりと実際にはハードルがたくさんあるのだ。
はやい、やすい、体裁がよい。
やはり、「我が家」つくりもMドナルドやファミリーレストランのように進めるしかないのか。
『そんなことはない』と近くの山が叫んでいるように見えてくる。伐り旬は今シーズン残り1ヶ月を切った。
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