合宿中の平日は、我々設計者のみで、役所を回ったり、手続き状の問題点を洗い出すことにしていた。
まず、浄化槽の補助金の申請書をもらいに役場にいった。
すると、役場の担当がこちらの不動産書類を見て「この値段で人が住めるわけはない。たぶん、問題が起きるよ。やめといたほうがいい。」と言い出したのである。
私は、「公的立場の人が、無責任にそのようなことを言うわけがないですよね!その根拠を責任持って教えてほしい。」と食い下がった。
役人は「電気だってこないでしょう〜?」と、訳知りのような不適な笑みを浮かべながら返してきた。
「九州電力に行って調べてみたほうがいいのでは〜?」と続けた。
釈然としないまま、役場をあとにして、即刻九州電力に向かった。
町役場から、九州電力の担当課までどのくらい時間がかかるかわからない。
16:00をとうに回っていたので、お役所的であれば、17:00で終わってしまう。
急いだ。
九州電力に着くまでに、電話で相談内容を伝え、必ず行きますからと念を押しておいた。
窓口に滑り込むと、奥の実務部隊の方へとおされた。
やけに平身低頭な白髪まじりの担当が出てきて、資料を見るなり「はぁ〜」とため息をついた。
不思議に思ったので、そのため息の原因を聞いてみた。
近隣の同じような山間部の分譲地で、電気をとおすのに3年ほどかかったとのこと。
民有地に電信柱を建てていくために、土地所有者の印鑑がなかなかもらえなかったらしい。
それで、やっとのこと最近解決して、やれやれと一息ついた矢先にこの話しだったらしいのだ。
詳しく聞くと、今回の場所は九州電力の費用で電気を供給できる場所ではあるのだが、民有地の建柱許可がもらえるかどうかは、始めてみないとわからないとのこと。
やはり、町役場の訳知り担当は、その辺のことをどうやら知っていたらしい。
(だからといって、公的立場の人が、「あそこはやめとけよ」なんて、勝手なことを言うのは、許せない!!)
また、排水経路も確保できるかどうか、疑問だった。
ホントの山のなかであれば、合併処理浄化槽の流末を蒸発させてしまったり、地面の中に浸透させてしまったりといろいろ策はある。
しかし、すぐ下部に畑、すぐ上部にも畑といった場所の場合、放流先が農業用水と絡んでくるために一筋縄ではいかない場合が多い。
そのことも役場に聞くと、「区長さんの一存になります。」とのこと。
ん?区長さんって、なんじゃろ?
区長さんが良いと言えば、役場も良い。
逆に、役場が良いと言っても、区長さんが認めないと、いかなることでもダメと言うことらしいのだ。
いまだにそんな行政を越えたある長の権限がまかり通るところがあるのか?
あるらしいのだった。
考えようによっては、地元に精通した人間が地域のことを決めることなので、合理的ではある。
しかし、不可解であった。
電気のことも、排水経路のことも、計画自体が本決まりではないので、それ以上前に進めることはできなかった。
しかし、我々が福岡にいる間に、その区長さんとコンタクトがとりたかった。
人が住める可能性があるのかないのか。
その手応えだけでも、確認しておきたかった。
連絡を取ると、何回目かで電話で話をすることができた。
「神奈川の設計事務所なのですが、○△□のところに家を造ることを依頼されておりまして・・・」
「あそこは、家庭菜園のために造成したとしか聞いていない」
「でも、不動産の物件概要書には、『別荘・家庭菜園に適』とありましたが・・・」
「いや、そんな別荘なんて聞いていない」
話しは、決裂してしまった。
電気や排水どころの話しではないのだ。
ざっと、一日走り回って、3点ほどの問題点が浮かび上がってきた。
電気、排水経路、住宅建設の可否。
その日の夜、これらの話しを森蔵ご夫妻に伝え、いろいろと策を練った。
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