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『クールビズ』という言葉が盛んに聞こえてきた。そのかけ声のおおもとは、『地球温暖化問題』であり『京都議定書』である。その方針を一般化するための具体的戦略として『チームマイナス6%』がある。当事務所も、この『チームマイナス6%』に参加した。参加にあたって、それぞれの団体の方針を報告する。当事務所は今までの設計方針どおり以下と申告した。

  • エアコンに頼らないすまいを設計する
  • 雨水を積極的に活用する
  • すまいの素材・設備をエコロジカルのフィルターで選択する
  • 近くの山の木を使う(最低日本の山の木)
※莫大な輸送エネルギーをかけて輸入される木材が、日本の山の木よりもローコストなのは一般生活者の視点からして理解しがたい現実があります。(小池百合子さんへ)


その当事務所の方針を具体的に実行する方法も明示する必要があろう。
まずは、1番目の『エアコンに頼らないすまいを設計する』を掘り下げてみたい。

最近、設計の打ち合わせで『エアコンを使わず、夏涼しく、冬暖かいってどうするんですか?』と聞かれることが多い。その場で説明するのだが、おそらく半分も理解いただいていないのではないかという思いが強い。それは、理屈で説明できても、感覚的に理解してもらえるような説明になっていないからかもしれない。今回は、理論と感覚的に理解できるような説明を織り交ぜて理解いただけるように試みる。

まずは、『夏涼しい家』。

私がこの『エアコンに頼らないすまいを設計する』上で、心がけていることは『自然の力を利用する』ことだ。まず私が活用する自然の力とは『水・空気は自分の力で一定温度になろうとする』性質である。

  • コップに水を入れお湯を注ぐとぬるくなる
  • お風呂のお湯はほったらかしにしておくとやがて水になる
  • 氷は溶けて水になる

何をいまさら、当たり前だろうと思う。しかし、このことで「水は常に気温に近くなろう」としていることが解る。空気の温度と同じになろうとして、自分の力で変化していくのである。当たり前だが、これが自然の力である。

次に、

  • 熱は上にあがる
  • 冷気は下にさがる
  • やがてある温度で一定になる
  • ある温度とは、外気温であることが多い

空気も温度差があると混ざり合いある一定の温度になろうとするのだ。もう少し、わかりやすく説明してみる。葉山に本拠地を構える当事務所は、『海風・山風』を肌身で感じている。午前中から夕方までは、『海風』。夕方以降は『山風』となる。下のイラストのように、昼間は地面からの放熱量が海の放熱量に比べて多いため、山の放熱量に引っ張られて海から山に向かって気流が発生する。海に放射された太陽熱は、放熱するよりも蓄熱されていくために山よりも放熱量が抑えられるのだ。

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『山風』は、逆に昼間、海に蓄熱された熱エネルギーの放熱量が山の放熱量を上まわるため、海の放熱量に引っ張られて海の上に上昇気流が発生する。葉山では、地形の関係で、この『海風・山風』の切り替わりが瞬時のことが多い。

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「おっ。風向きが変わった!」とすぐに解る。地形によっては切り替わりのタイミングが遅く、無風状態が長く続くところもある。これが、瀬戸内海地方独特の『べたなぎ』だ。この『海風・山風』は、海釣り、ウインドサーフィン、ヨットなどをやっている人たちは感覚的に理解できると思う。夕方、無風状態になるが、その後そよそよと風が吹き始める。夏の夜釣りはこの微風がとても心地よいものだ。

このことも、「空気は常に同じ温度になろうとする」ことを教えてくれている。地球規模で考えると、日の当たっている地域とそうでない地域に温度差があるために、一定温度になろうとして「海には潮流」、空には「気流」が発生しているのだ。これが、『水・空気は自分の力で一定温度になろうとする』自然の力である。これをすまいのデザインやプランニングに活用していくのだ。


具体的に説明しよう。
私は自然の力を使って夏涼しい家にするために、まず『吹き抜け』を活用している。

▼この断面図は一般的な吹き抜けのないすまいをあらわしている。赤い部分が温度が高い部分である。それぞれの部屋が個室となっているため、その空気は外気と同じ温度になろうとするが、人間の体近くまで温度が上がってきているのがわかる。窓が一カ所でも、窓の上から熱は逃げていき、窓の下から空気が入ってくる。これで、外と中の温度を同じにしようとしているのだ。自然の力は、すばらしい。けっして、風があるから涼しいのではないことに注目してほしい。

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▼同じ断面で、的確に吹き抜けや熱抜き穴などを設けてやると、赤い部分が人間まで到達しにくいのが理解できる。外に風が吹いていなくても、家の中の温度と外気温に温度差があると、勝手に空気は動きだし外の温度に近くなろうとする。窓ひとつでも起こる空気の入れ替わりをすまい全体でやってしまおうということなのだ。このケースでは、2階の個室にも小さな吹き抜けを計画し積極的に熱を抜いている。この吹き抜けを計画的に仕掛けていく。これが、『空気は自分の力で一定温度になろうとする』自然の力を利用して夏涼しいすまいにしたてるこつなのだ。

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じゃあ、外気が30度、家の中も30度だったらやっぱり暑いじゃないか。確かにその通り。風が吹いていれば、窓を開けるだけで涼しくなる。風がなければ暑いじゃないか。それもその通り。でも、人間の体温は37度前後、家にいれば人間も発熱する。食事の支度をすれば、台所から熱が発生する。それで、外が30度、家の中は32度だとしよう。すると、やっぱり温度を一定にしようとして、熱は上にあがり、外の30度近い空気が家の中に入ってくる。

ここで注目したいのが、微風である。自然対流で動く空気は微風でも、人の肌に触れると体感温度は下がるのだ。同じ30度でも、肌のまわりの空気が少しでも動くと涼しさを感じる。これは扇風機が涼しい理由である。何も冷たい空気を送っているのではなく、風を起こしているに過ぎない。30度に設定したエアコンをかけて、空気の動かない部屋にいるよりも、ずっと涼しく感じるはずだ。この空気の性質(熱い空気は上に。常に温度は一定に)を利用して、吹き抜けを空気の通り道にしてしまうのだ。


次の工夫は、『直射日光を避ける工夫』をすることだ。

▼夏至(6月21日ころ)から秋分の日(9月23日ころ)にかけてできるだけ直射日光が入らない工夫をする。下のイラストは、ベランダやひさしを設けることで、それをコントロールしている。しかし、このベランダやひさしで調整する直射日光は、冬にはとてもありがたいエネルギー源になるので、トータルなバランスが大切。

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▼この吹き抜けは、冬には直射日光の通り道になっていることにも気づくだろう。

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『冬暖かいすまい』は、次回に説明する予定。


夏涼しく、冬暖かく。エアコンに頼らず、自然のちからを利用する。
我々が、チーム・マイナス6%に参加表明した方針の具体的手法のひとつである。

説明に使用した断面図は、『鎌倉。木・風・大黒柱のある家』。1年点検に伺ったとき、『夏涼しくて、冬暖かいですよ。佐山さん!エアコン無しで夏大丈夫でした!』というお褒めの言葉をいただいたのだ。


[2005.06.28 14:20追記]:
私が設計するすまいに吹き抜けのないすまいもある。
そのようなすまいでも、自然に流れる空気の力を利用している。
そのようなすまいはできるだけ、階段室をすまいの中心近くに配置するのがポイント。
そうすることで、家の真ん中が煙突になり、下の階の四方から空気を吸い上げ、2階へ運ぶ。
2階に運ばれた空気は、できるだけ高いところから抜いてやるのがこつ。

『うちは、吹き抜けも、階段室も家の中心にないから・・・』と嘆く必要はなし。
夏にクーラーを使わないで生活する方法はあります。
できるだけ、1階の窓を開け部屋のドアを開ける。
そして、2階あるいは、3階の窓を開ける。
できるだけ、家全体をワンルーム化すること。
そうすることで、自然の力を利用して、家の中に気流をつくるのだ。

今回紹介した方法は、断熱的には普通のやりかたで十分可能。
さらに断熱効果の高い断熱材を利用することで、外気温の影響を受けにくくなることはあるが、断熱材が効果を発揮するのは、やはり冬なのである。

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今日はむっちゃ暑かったですなー。外にでたら....くらくらあ〜〜〜。ひえ〜〜あび〜〜!!ですぐに家の中に退散!してしまったあ!でもうちには実はエアコンがないので... 続きを読む

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うちもおかげさまで快適ざんす。
昨日まで一番熱いロフトで寝てました。
窓を開け放していれば、充分まだ快適です。
昨晩は箱根から吹き下ろす突風がものずごく、窓を開けると風が入りすぎてうるさくて眠れず、
窓を閉めれば暑くて眠れず、
夜中に何度も目をさましてしまい、やむなく今日は一階に引越ししました。

一階はやっぱ涼しいでねえー。
けど、一階はムカデがいるから....。
なるたけ最上階で寝たい私です。

りんさんちは、吹き抜けないですね。
でも、階段室を家の真ん中につくってあるし、
なんと言っても完成当初から、2階上のロフトを寝室にしている・・・。(驚
これって、動物が持つ本能的な居心地の良さを嗅覚で探り当てるような感じですね。
ほとんど、猫や犬と一緒。(謝
その暮らし方を見て、ほんとにホッとしています。
次は薪ストーブですが、冬でも暑くなると思いますよ、なんてたって薪ストーブですから。(爆

うちは、一階が涼しくて、また冬も薪ストーブで暖かいので、一階で寝ているのですが、
今年に入ってから、寝室の前で一匹、
枕元で一匹、ムカデを発見しました。
うわーーー
去年、なにかわからない虫に布団の中で刺されたのですよ
あれはなんだったんだろう?
ムカデなら感触でわかると病院で言われたのですが・・・

あと、屋上で二匹見つけました。
土や腐った枕木などに住み着いている模様。
自然とつきあうには、いろいろありますね。

でも、さっきみたプロジェクトXでは、
ギニアで、ツェツェバエ、毒蛇、サソリ・・などと戦った測量技師の話を見ました。
日本の自然なんて、穏やかで美しいものですね・・・
でも、ニョロニョロ系はなー・・・

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