先月、JIO(日本住宅検査保証機構)に加盟した。きっかけは、現在設計しているお客様につくっていただいた。そのお客様のご実家が土木業を営んでおられ、建築はできないが、基礎工事はご実家でやりたいとのこと。建て主による分離発注を希望された。そのうえ、JIOに保証してほしいというリクエスト。JIOに確認すると、建て主による分離発注の場合、建物をすべて保証するのは難しい。しかし、設計事務所が全体を統括するのであれば、設計事務所経由で保証を付けることは可能ですと新たな展開。詳しく話を聞くと、設計事務所も加盟していることがわかった。
「それでは是非お願いしたい」というお客様のご希望なので、早速手続きを開始。加盟金を支払い、申し込むと『導入説明会』なるものが当事務所で行われた。JIOの保証対象になるこまかな技術基準の説明。その基準は住宅金融公庫の基準よりも少しきつい程度かなというのが本音の感想。
以前こんな経験がある。私の設計したすまいでの話。地質調査を行い構造設計者と協議した結果、地盤改良した方がよいと判断。長年にわたって、じりじりと家が傾くのはどんなことをしてでもくい止めたい。当たり前の話。しかし、目に見えない部分だけに予算との兼ね合いで『えいや!』と目をつぶってしまう業者もいる。街を歩いていて基礎工事の現場を見かけるが、「おいおい、そんなことしててだいじょうぶか?」と心配することも多々。その不等沈下を抑えるために、地盤改良を設計図書に入れていたのだが、コスト削減の調整中、施工業者が地盤改良は必要ないのではと提案してきた。そこは全物件JIOの保証を付けている優良工務店。「JIOが地盤に対する基礎設計の提案もしてくるので、その結果を見てみましょう」とのこと。その提案を受け入れることに。出てきた結果は「べた基礎であればオッケー」とJIO。構造設計者と協議した結果、JIOが保証してくれるんなら地盤改良しなくても良いかということで、我々の基準をレベルダウンした。
不必要に、安全基準をレベルアップするのは不経済。しかし、その基準をどこに設定するかというのは、設計者の大きな役目だ。以前、公共施設の設計提案書にこんなことを記述しているのを見たことがある。
- 建築基準法に準拠して工事した場合の工事予算〜1億円
- 建築基準法の2倍の安全率で工事した場合〜1億2000万円
- 建築基準法の○倍の安全率で工事した場合〜1億○000万円
ばかげた話だが、どこまでの安全性を要求するのかを発注者側に決めてもらいたいということか。その企画書『我々は高耐久仕様で設計していますので1億○000万円が予算になります』と締めくくられていた。お金で安全性を示されるとわかりやすいかもしれないなとその企画書の手法に妙に感心したのを覚えている。
JIOの『導入説明会』を聞いていて、やはり保証する上で、保証側に都合がよいことで基準がつくられているなあとも感じた。例を挙げると、屋上の扱い。私は都市住宅の場合、屋上の効能を積極的に活用している。JIOの保証技術基準に屋上は『居室に面していること』が条件。単純に階段を上がって行く屋上は保証しないのだと。とても、不思議なのでその真相を問いただす。すると、技術的なことではない理由。常に住んでいる人が様子を確認できる屋上でなければ、排水溝にはっぱがたまったりしてあふれてしまうこともありますからと。そんなすまい手のミスによって雨漏りする可能性のある屋上は保証対象にしませんということらしい。へえと感心するが、すまい手の自己責任の範疇まで言及して、豊かなすまいの足かせをしているのかとも。しかし、全体的なJIOの基準は高いと感じた。建築基準法<住宅金融公庫基準<JIO基準だろう。設計事務所でも、千差万別なので単純には言い切れないが、設計事務所にすまいを設計依頼していればJIOを使わなくても良いかとも思う。
先ほど、現在設計している共同住宅(ワンルームマンション)の地主さんから、JIOは使えますかとの問い合わせがあった。共同住宅でもJIOの保証システムは使える。30万近く検査と保証費用がかかるが、共同住宅などは良いかもしれない。地主にとって収益物件以外のナニモノでもないからだ。その地主さんは千葉在住。現場は神奈川。いくら設計事務所が関わっているからといっても、現場の様子はわかりにくい。JIO管轄の現場とすることで、収益物件の質をあげたいという目論見はいい視点だと思う。
[2005.07.14追記]:
同じプラン(間取り)でも、価格設定はいくらでもできるのが建築のマジック。あたりまえにやって坪70万のプラン、坪30万でつくってくださいと言われればやる業者はいる。目に見える様子やデザインは同じでも、目に見えないところでいくらでも調整できるのだ。仕事に対するプライドとやりにげしない姿勢があれば、おのずと単価は上がっていく。行政もそんな業者に目を光らしているのも現実。神奈川の場合、建て主がはっきりしている住宅の場合は、行政による中間検査はない地域が多い。しかし、建て売りなどの建て主が決まっていない物件は、中間検査が義務づけられる。この例などは、住宅建築の現実を的確に表しているいい例なのだ。
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