葉山町しかも事務所から歩いて5分。我が庭で開催されているネットコンペのプランが落ち着いた。敷地を見て構想から約3週間。見えない施主の生活のクセを想像しながらのプランニングだ。手がかりになるのは、希望条件と若干の情報のみ。コンペ参加者と建て主による掲示板は設けられている。この手のコンペは3回目の応募なのだが過去2戦2敗。それまでは、掲示板で不明点を質問したりしたのだが、私の中では不完全燃焼。今回は挨拶程度のとどめる。それよりも、事前に与えられた条件を徹底的に練ることに集中した。

実施コンペとはいえコンペなのだ。その計画地での理想を形にしていきたい。幸い建て主の顔が見えず、少ない条件を手がかりにするので、細かい判断は全て私自身。私がそこに住むとしたらどう解決するのか。依頼主の希望条件は控えめで20点強。すまいをデザインするのには少なくとも1000以上の条件を取捨選択して組み立てていく。無限のアイテムをどのようにとらえ解決するかによって佇まいが決まる。設計者の頭の中で繰り返される問答がデザインを決める。依頼者の望みと設計者のひねり出した解の重なりが大きい案が採用されるのであろう。

そのすまいの条件のひとつに「風格のあるすまい」というのがある。どう解釈するか、大きくデザインが別れるポイントだ。リビングが明るくとか広々とといった条件であればそのまま素直に採ればよい。
私は風格を「風にさらされることにより味が出てくるたたずまい」と解釈した。すなわち、完成した瞬間が最も美しいのではなく歴史と共に味わいが深まるすまい。そんな家って誰もが望むだろうと思うがどっこいそうでもない。歴史と共に味わいが深まることは家人が手をかけることと同義語。手入れを重ねる愛情の歴史が風格になっていく。しかし、実情はメンテナンスフリーを望まれることが多い。手間暇かけなくても完成時の美しさをそのままに。それはその方が楽だろうが、そんなものに本物はない。

【風格】を新明解で引く。「その人を特徴づける、独特の味わい」とある。やはり年輪による個性と読める。そのページの前後を眺める。【風景】〜目を楽しませるものとしての、自然界の調和の取れた様子。[好ましい場面の意にも用いられる。例、「一家団欒の〜」]「田園〜」…。【風合】〜織物に触れたときの、柔らかさ・しなやかさなどの感じ。【風味】〜口に含んだときに感じられる、その独特のよい味。

上記だけを見ると、風が絡む言葉の多くはその事象を包み込む空気あるいは感覚のことをあらわし、好意的に使われるようだ。当事務所の住宅作品に命名する「○▽□。木・風・○▽□の家」の風もそんな意味が込められている。物理的なWINDの意味に加えて、歴史と共に味わい深く愛しんで欲しいという意味。

構造躯体はRC造を希望されている。RC=コンクリート。実はこの材料は自然素材なのだ。自然界に存在する材料のみで構成されている建築材料。新しい打ち放しもきれいだが、風化して熟した打ち放しコンクリートも風流な味わいがある。
また、木はヘンな化粧をせずに風雨にさらすと銀ねずみ色に変色する。これを美しいと思うか、汚いと思うかは、見る人による。マニアックに味わい深く風雪を感じる素材として感じることができれば願ったりである。ちなみに私は銀ねずみ色風化色は美しいと思う。押しつけることはしないが。
10年後、この熟した打ち放しコンクリートと木の銀ねずみ色のたたずまいは葉山になじむすまいとなると信ずるが、果たしてそれを風格のあるすまいと理解できるだろうか。私は素晴らしく風格のあるすまいだと思うのだが。

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