私の原風景は北海道山奥の炭坑町である。小学4年生まで育った。炭住のまわりにはズリ山(ぼた山)が点在し、見上げれば遠くに山のスカイライン。いまだに頭の中で東西南北を思い浮かべるときは、当時の山々が去来し確認する。一昨夜、久しぶりに「幸せの黄色いハンカチ」を観た。4回目ぐらいだろうか。観るたびに今は無き故郷を思い出す。羽幌炭坑には10年住んだ。閉山と同時に北海道深川市に移り8年、大学進学で東京に出て周辺部に転々と約13年、独立と同時に葉山に定住し14年。今までの人生で一番長く住んでいる場所になっている。私は葉山が好きだ。今のところ移り住みたいとは思わない。今のところという条件付きなのは、激変しなければということ。葉山の好きなところが無くならなければということ。
好きな点は、まず山と海のエッジであること。これは健康的にすこぶる良いようだ。夕方になると昼間の海風から山からそよぐ山風に変わる。海と山が接近しているせいで、瀬戸内海のようなべた凪も一切無い。海風山風が瞬時にして切り替わる。これは湘南地域でもめずらしいだろう。私の事務所兼自宅は海に開けた山肌に張り付いているのでいっそう顕著に感じる。昨日も所用で横浜まで出向いた。エアコンのないサンダルがわりの軽トラで行ったので窓は全開。行きは用事を足しながら一般道を汗だくで走った。帰りは横浜横須賀道路を窓もアクセルも全開で走ってきた。横浜で高速に乗った時点では熱さを感じていたのだが、逗子ICを過ぎるあたりからぐっと冷気が増してきた。葉山近郊に近づいたとたんに温度が下がった。緑が多いのはもちろんなのだが、山と海のエッジに存在しているために地域の温度が周辺地域と違うようだ。これはとても過ごしやすい。夜も1階と3階の窓を少し開けておくだけで煙突効果抜群で熱気がぬけてゆく。室内温度よりも外気温度が低いので、全く風が無くても気流が発生する。本当にやせ我慢することなくエアコンのない生活がおくれるのは葉山特有の地域気候にあるのかもしれない。
次に好きな点は、新旧の混在。Traditional & Modern 。古くから暮らしている人々と新しく住み始める人の混在。この歴史は古い。1次産業を中心に暮らしてきた地域に別荘文化が根付く。御用邸もそのひとつだろう。新しい文化を受け入れつつも大きく町が変わらなかった。鉄道が入り込まなかったことも大きい。しかし、昨今は町の多くの面積を占めていた企業の保養所がマンションや宅地に替わり様相が変わりつつある。それらの多くが、葉山の現代住宅というよりは、日本全国でどこでも見られるような地域性のないもの。古い家屋だけが良いのではないが、せっかくだ。かろうじていまだ残っている葉山の空気感がなくならないようにしたい。有形無形において新旧混在するところに葉山の可能性を感じるからだ。
しかし、激変の兆しは見え始めている。道路拡張がすすむ。道が狭かったために車と歩行者の共存が危険と背中合わせながらも成立していた。車線が広がると、速度が上がる。商店は益々さびれる。人が歩きにくくなる。悪いことばかりにならなければよいが。老人ホーム建設があいつぐ。葉山に限ったことではないが益々老人が増える。そのことで、希薄だった世代間交流が増え、凶悪犯罪を地域で無くせるように成熟していくと良いのだが。見ていないようで見ている。気にしていないようで気にしている。田舎でもない都会でもない。葉山は独特の距離感をもっている。
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