今年一番の出来事は、やはり犬社員春呼の訃報。設計事務所をはじめてまもなく犬社員として迎えた。優秀な彼女はお客様の接待はもちろんのこと営業もしっかりこなしたキャリアウーマンドックだった。
今日も大掃除をしながら、物陰に潜んでいた彼女の抜け毛を掃除機で吸い取りながら春呼のことを思う。掃除機で吸い取れない毛はそのままにしておこう。彼女の歴史だ。借家でいくか、持ち家で行くか。むずかしい。人それぞれの価値観だ。ただ言えることは、プライスレスな家族の歴史を刻むことができる持ち家はお金に換えがたい。
春呼が残していったものは業績や想い出だけではない。彼女のおかげでたくさんの友人ができた。それが彼女の大きな功績だ。春呼の訃報を伝えて、贈られてきた献花の多さにはびっくりした。私が息絶えたときでもこんなに来ないのではないかと思えるくらい多くの花で埋まった。それほど春呼は友人達にたくさんたくさんお世話になったということだ。
●1月
元旦から半田ごてを握る。途中でコンデンサが爆発したりとあわてふためいたが無事真空管に灯りがともる。作ることも楽しい。その自分で苦労したアンプで音楽を聴くのも楽しい。やはり手で作ることが私には大きなリフレッシュ。
●2月
静岡の『浅羽町。木・風・ピロティのある家[No.26]』に建て主と見学に行く。夜更けまでいろりを囲む。呑み助にはたまらない肴。このすまいもう4年経過する。いろいろじろじろチェックする。完成後、建て主と一切つきあわない建築家もいる。(宮脇M談)私はどちらかというと積極的におじゃまする。私の仕事の経年変化を是非見届けたいからだ。
●3月
今年は例年になく春から5つのすまいの設計がわさわさ動き出す。うれしい悲鳴。ほぼ同時期にスタートするもそれぞれ味わい深い。みな足並みそろわずに良い具合にテンポがずれてゆく。
新しいすまいの設計別冊に我が家が登場。『世界で一番自分らしい家6』。我が家は土地を決めて銀行ローンの関係上、2週間でプランを私が勝手に作って1ヶ月後に確認申請を降ろした。短期決戦。やりたいことをやった結果。力強い建築になったのだろう。我が家も今年で10年。もっともっと力強いすまいを造っていきたい。
●4月
昨年末、藤沢の東急ハンズが閉店した。一番の気がかりは「アウロのビーズワックス」が常時手に入らなくなったこと。横浜ららぽーとに東急ハンズがテナントインしたと聞きすぐさまチェック。あったあった。これでいざというときの我が家のおんぼろ杉板メンテナンスも万全だ。
●5月
昨年末完成した『葉山。木・風・光井戸のある家[No.43]』におよばれ。家族ぐるみのお付き合いをさせていただいている。それにしても、ご主人。薪造りを体力増進といいながらせっせせっせと薪を積み上げてゆく。うらやましい限り。薪がファサードの一部となり良い雰囲気を醸し出している。
●6月
毎年、春呼は5月の連休頃から後ろ足の具合が悪くなる。今年も例年のように調子が悪くなるも、5物件の設計デットヒートに心を亡くし。また夏になると元気になるさと気遣ってあげられなかった。もう、このころから骨肉腫にむしばまれていたと思うと、忙しさに心を亡くしてはいけないと反省させられる。もし、このときにきちんと病院に行っていたならば...と思うとやりきれない気持ちになる。
●7月
オープン直後、横須賀美術館を体験。山本理kenさん設計の美術館。山本さんと言えば、私が若い頃(25年くらい前?)、一軒のすまいをLDKの建物とビジネスホテルのような個室棟を一つの敷地内に建てて、家族像のあり方を模索していたことがとても印象的だった。「メシを食う以外は、それぞれ別々で。それが何か?」みたいな潔さがあった。横須賀美術館も潔さがめだっていて勇気のある人だと再認識。
●8月
最後の4日間春呼は私と葉山で二人っきりだった。家族は帰省していた。家族が帰省先から帰ってきた翌日夕方春呼は虹の橋を渡った。その壮絶な最期の4日間の3日目。私は犬用おむつを買いに走った。動けないのだ。夏の暑さで下半身が発酵する。シャワーをしてあげる。シャンプーをしてあげると気持ちよさそうに目を閉じていた。家族が帰った翌朝、大好きな肉ごはんをさるこから手でもらいぺろりと平らげた。心を亡くしていた私は彼女の泣き声の意味を理解できずに泣きやんだところで。はっと思い。仕事の手をとめて3階ベランダに行くと息が止まっていた。体は温かいがもう戻らなかった。何故か私は「よかったな。よかったな。」と言いながら体をさすっていた。
●9月
地域の行事には積極的に参加してゆきたい。すまいのあり方を模索する上で、今後は地域との関わりを無視するわけにはいかないと思っているので自ら実践。葉山森戸神社祭に真名瀬組の提灯持ちとして二日間参加。地域の長老達と二日間時間を過ごすことで有意義な時間となる。今年で2年目。私が最年少。来年も参加したい。やっぱり自分が棲んでいる地域を良くするも悪くするも私自身と思い続けてゆきたい。
●10月
『葉山。木・風・丼の家』完成。本年の設計デットヒートの第1号。このすまい建て主ご主人が、5月中に着工しないとよろしくないという締め切りがあったために、建築基準法大改正を運良く逃れられた。もっともっととデザインを突き詰めていっていたならば、建築基準法大改正の荒波にのまれてしまっていたかもしれない。直感、第6感はまんざらすてたものじゃあない。
●11月
地鎮祭はその土地の神様達を呼び、『これからすまいを建てますので、どうかひとつよろしくお願いします』という神事だ。私もかれこれサラリーマン時代も含めると100以上地鎮祭に立ち会ってきている。サラリーマン時代は若かったこともあり、気持ちが入らなかったが最近ではきちんと土地の神々にお願いするようにしている。なにを?それは勿論。言うまでもないのである。
●12月
12/14午後。ふとマックの画面から目をそとにやると虹が出ていた。大きな虹だ。葉山に来て15年。葉山ではじめて見た虹。大きかった。春呼もあんな大きな虹の橋をわたったのだろうか。今年もあわただしく年末がすぎてゆく。もっとゆっくりゆっくり周りに目を向けて!と春呼が言っているような気がしてならない。
来年もこの公私混同ブログをよろしくお願いいたします。
みなさん、良いお年を!
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