2005年秋。一本の電話が鳴る。初めての声。お互いドキドキした。アポを決めお会いした。奥様は小樽出身。ご主人は関東の方。プライベートブログで私を知り電話してくれたという。なにはともあれ、故郷を離れて葉山に住む。これだけでも大変なこと。同じ道産子としていたく気持ちが高ぶる。転勤を数回経て、そのご家族が永住の地として決められたのが葉山だという。その計画地は南北に長い長方形の土地。南道路と条件はよいが、道路に面した窓にレースのカーテンを引いて過ごすことは提案したくなかった。
時期を同じくして、葉山の風情がずたずたにされていた。企業が持っていた大きなお屋敷保養所。かつての男爵子爵が持っていた平屋に屋敷林。すべてが経済失墜で宅地に切り刻まれていった。葉山の中腹から堀内の変貌を眺めていた私はこのまま葉山らしさが無くなっていってもいいのだろうかと考えていた。素のままの葉山のすまいは、この土地ならではかつ昔ながらの杉板の下見板張り。今でも土着のリフォームは杉板の下見板張りで増築されている。ぴんと来た。小樽といえば北海道盛期のニシン御殿。ネットで検索。記憶をたどると間違っていない。ニシン御殿と葉山の旧家のデザインはほぼ同じ。内地から渡った大工がそのウデをふるったのがニシン御殿だ。
デザインの方針は私の脳内で勝手に決まった。その後は、そのデザインをいかに葉山の町のどまんなかで耐火性、温熱環境、終の棲家としてのシェルター環境を組み立てるかに腐心した。「南道路に向かいレースのカーテンを引かずにおおらかにすまう。」「葉山の町の良さを継承するデザイン」「人工エネルギーに頼らない建築的工夫と家人による工夫で地球にローインパクトなすまい」この3本柱で私のスタディは進んだ。結果、建て主ご家族の賛同を得て、2006年末にすまいが完成した。
■ 物件概要 |
設計 :(株)生活空間研究所 一級建築士事務所 佐山希人 鈴木香住
構造 :地上3階木造軸組構造
設計期間:2005.11〜2006.07
施工期間:2006.08〜2006.12
施工 :成幸建設(株)宮原成幸 岩田健一
● デザインコンセプト |
『葉山の町に違和感なく。そっと』
● このすまいの一番の特徴 |
水盤による建築的光量調整
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