少子化が進み、どんどん世帯数が減っていくと、使われなくなった住宅が増え、新築よりも中古住宅の売買が活発になってくるとの記事を読んだ。優良なストックが増え、新築よりも投資コストが抑えられるのであれば、大きな選択肢として存在感が増してくると思う。当事務所もリフォーム前提で中古住宅の売買に立ち会うことが少なくない。今後はもっと増えてくると思われる。そんな時に頭に入れておきたいポイントを書き留めておく。

●不等沈下(不同沈下)

物件の善し悪し、購買動機は人それぞれだろうが、プロとして見るポイントはまず建物が傾いていないかどうかを感覚で調べる。それは、修復するのに最も費用がかかる重要なチェックポイントだからだ。傾斜程度や工法によって費用は様々だが、数千万から少なくても300万円程度はかかる。財産性や健康のことを考えると建て替える方が良いという結果になることもある。しかし、中古住宅を選択する時点で、建て替える費用が無いから、あるいは建て替えられないから中古住宅を選択している場合がほとんどだろう。そうすると、購入後不等沈下を知ると予算計画が大きく狂ってくるので要注意だ。

家の中を歩いてみて、たたずんでみて、平衡感覚に異変を感じたら、まず床が傾いている。人によって感覚誤差があるものの、そこにいる誰かが異変を察知したら計測してみることをおすすめする。以前、たまたま異変を察知したので、iPhoneのアプリで水平器があったので計測してみた。しかし、ほとんど傾斜が計測されなかったので、勘違いかとそのときはそのままにした。後日、レベル測定器で計測するとかなり傾いていることがわかった。iPhoneアプリは信用できないと知る。注意してかからないといけない。

念を入れてチェックするためには、壁の傾きを測定することが重要。何度もリフォームされて売買されている中古住宅の場合、床の傾きは簡易修復されている可能性がある。簡易修復とは、傾いた床を水平に作り直してしまうこと。なかなか見抜けない。歩いただけでは、全く気にならなくなってしまう。しかし、建物が不等沈下している場合は、壁も当然ながら傾いている。その壁は簡易修復というわけにはいかないので正直に傾き具合がわかるのだ。この時やっかいなのは多少壁が傾いていても感覚的にはわかりにくいことだ。また、簡易であろうと床の傾斜が修復されていればそれで良いのではないかという考え方もある。不等沈下が収束していれば良いが、進行中である場合、購入後さらに傾いていくことが想定できる。地盤調査、基礎調査を行い、その可能性を探ることになる。可能であるならば不動産購入前それらの調査を行いたいものだ。

どんな建物でも、きちんとした対策をとっていない場合傾いていると思った方が良い。その程度により、その建物に構造的な瑕疵があるかどうかを判断する基準に「住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準」(品確法の関係法令)がある。これによると、建物の勾配により以下のように定義づけられている。

・3/1000 未満の勾配:構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性(以下A)は低い
・3/1000 以上 6/1000 未満の勾配の傾斜:Aは一定程度存する
・6/1000 以上の勾配の傾斜:Aは高い

※勾配は、凹凸の少ない仕上げによる壁又は柱の表面と、その面と垂直な鉛直面との交差する線(2m程度以上の長さのものに限る。)の鉛直線に対する角度をいう。

国土交通省のサイトより引用



また、傾斜程度により健康被害がでることもある。以下のように書かれている医院のサイトがあった。とてもわかりやすいので引用する。

傾斜した住居に居住することによるめまい

今回の震災で、地盤が緩んだり、津波で一階部分に損害を受け、住居が傾いてしまった方がいらっしゃいます。
0.2-0.5度傾くと一部損、0.5-1度傾くと半壊、1度以上傾くと全壊と認定されることになりました。
イタリアのピサの斜塔は5.5度傾いています。
テーブルにおいたボールは0.36度傾斜すると自然に転がり始めますが、
人間は0.3度でも、その傾斜を自覚するといわれています。
傾斜した家に住んでいると、まっすぐに歩けなくなったり、頭痛、不眠、食欲不振、吐き気などの消化器症状に悩まされる様になります。
内科や脳の検査では異常はでませんが、マン検査が異常になります。
めまいの改善には、傾斜した家から退去する事と、めまい改善のためのリハビリが大切です。
残念ながら、傾斜した家にお住まいのうちは、めまいが改善することはありません。

朴澤耳鼻咽喉科&統合医療センターのサイトより引用

※1度≒17/1000、0.2度〜0.5度≒3.5/1000〜8.7/1000、0.3度≒5.2/1000


大きな買い物をする前に、きちんとした下調べをすることが大切。仮に、不等沈下していることを事前に発見した場合、その程度を知り、不動産購入の交渉条件とするか、購入しない判断材料とするか。人それぞれ。しかし、正しく現状を知ることはもっとも重要だ。また、不等沈下がおさまっているか、進行しているかも重要だ。一度傾きかけると目に見えないスピードであっても傾き続けていると考えるのが自然だろう。中古住宅を購入する際のもっとも重要なポイントである。


バナー写真は、一見モルタルで塗り固められているとキチンとした擁壁に見えるが、そのモルタルがはがれるとそのいい加減なものであることが露出しているもの。あまりにもひどい事例なので使用。記事内容とは一切関係ありません。


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