//////////////  この記事は「関東大震災の思い出」(編集:永嶋照之助・鈴木麻知子)から許可をいただいての転載です。88年前の関東大震災の記録から教訓を学びとり、今後起こりえ る大震災への備えとなれば幸いです。(佐山:2011年4月)   ///////////////


 大正12年9月1日、それは私の小学校5年生の時でした。 2学期の始業式に行き、久しぶりに友達と顔を合わせました。みんな元気でした。 「昼から遊びに来なよ。」「うん、行くよ。」と言い合って夫々家に帰りました。

 私は、家に帰るとすぐランプ掃除を始めた。このランプ掃除を先にしておかないとゆっくり遊べないからだった。 その頃はまだ電気は引けていなくてランプ生活だったのです。どこの家もランプ掃除は子供の役だったのです。それというのも子供でないとホヤの中へ手が入らないからです。 「これで夕方までゆっくり遊べる。」と思うとなんだか心がはずんで、とても楽しく思えました。

 その時です。突然家が動き出し、棚の上から物が落ちる。タンスが倒れる。 私はどのように表にとび出したのか覚えていません。夢中だったのです。腹ばいになり、草にしがみついていました。 目の前の地面が割れて、吸い込まれるような気がした。とても怖かった。

 どのくらいたったのか、夜になった。 母がわきの畑の箒草の所に蚊帳を張ってくれた。2本の大きな箒草に支えられた蚊帳の中で姉と2人で寝た。でもまだ時々揺れてくる。とても怖かった。 朝になった。家の中をのぞきに行った。タンスは倒れたまま、その辺りは棚から落ちた物で足の踏み場もない。急いでまた蚊帳の所に戻る。まだ時に余震がくる。 それから何日かたったのだろうか。にわとり小屋に同居させていた兎が顔を出しているのに気が付いた。私は兎の耳をつかんで、「ああ、お前を忘れていたよ。ごめん、ごめん。」とあやまりながら、小屋の中に入れてやった。 その時、ふと隣のおばあさんの事が気になった。 「おばあさんどうしているかしら。」と隣に行った。

 「ばあ...。」と声をかけた。家の中は散らかりっぱなし。その散らかった家の中にばあは鉢巻きをして、横になっていた。「ばあ!」とまた声をかけた。ばあはだまって手をさし出した。私は夢中でその手の中に抱きついていった。 ばあの涙が光っていた。私は思わず大声をあげて泣いた。 ばあは、「けがもなくて、よかった。よかった。」と言って私を抱きしめてくれた。 その後、朝鮮人の事とか、いろいろな事がありましたが、あの恐ろしさのなかで、ばあに抱きついて、思わず大声で泣いた思い出がいつまでも強く強く心に残っています。

平成5年9月1日



出典:関東大震災の思い出(平成8年9月1日発行)
編集:永嶋照之助・鈴木麻知子
発起人:永嶋照之助
http://www8.tok2.com/home2/kantodaishinsai/


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