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2005年暑い夏の日、久しぶりに建築を見た。建築を専門に職業とする私にとって、建物と建築は自然に使い分けている。「音楽は流れる建築であり、建築は凍れる音楽である。」とドイツの詩人シュレーゲル。
その日、表参道は熱く、刻々とその姿を変えつつあった。ふらふらと界隈を歩くとそこには、熟した建築、新しい建築、さなぎの建築、ゴロゴロしていた。それらを際だたせるように、旧態依然の建物もぐっちゃりと溶けていた。

今にも雨が降り出しそうな、真っ黒な雲がたれ込めてきた。街の雑踏にいても、質の高い音楽はすっと耳になじんでくる。商業路線を狙ったこびるような音楽は耳にうるさいだけだ。暗雲立ちこめる中、ケヤキ並木のむこうに伊藤豊雄さんの近作「TOD'S」が見えた。おっ。トッヅだ。歌謡曲が多い中で、ホーン一発勝負の骨太ジャズが目に飛び込んできた。
伊藤豊雄さんは、考えたことをそのまま形態に丁寧に表現していく建築家だと思う。おそらく最初に思い浮かんだであろう、そこの都市を含めた文脈にふさわしい、思いついたままの形態。これは実務者にとってとてもエネルギーがいる大変なことだ。『もう少し一般受けするように』『もう少し企業の姿勢がわかるように』『中の人が使いやすく』『けんけんがくがく』こんな雑音が入り交じり、やがて歌謡曲になってしまう。それをはねのけ、ストレートにシンプルに自分の信念を丁寧に押し通していくことは並大抵ではない。自分の中で、ある裏付けのもとにひらめいた信念を最後まで貫いていく姿勢に私は惹かれている。そこには、計り知れない「割り切り」と「世の中を批評する思考」がエネルギーになっていると感じている。

「単なる物体である人間が使う箱」を見て『あっ!建築だ』と思うものは、やはり質の高い音楽であり作者の意図が明快に表現されている怨念の固まりだ。いわゆる建物にはその意志のエネルギーが感じられない。
しかし、能書き無しに『かっこいい』『Cool!』と思えるものは純粋に力のある建築。音楽もへりくつ抜きで引き込まれるものには力がある。そんなのが本物なのだ。TOD'Sはクールにそびえていた。


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■ 建築家・伊藤豊雄さんの概要


昼食時だったので、表参道でのお気に入り「まい泉」へ。久しぶり。ここは禁煙席より喫煙席が断然良い。高い天井と豊かな空間。そう、ここはその昔銭湯の脱衣場だったのだ。男女の境をぶち抜き、客席としている。街の雑踏の中で、ゆったりとした時間が流れる。相変わらず贅沢な空間でのトンカツ定食は安くてうまかった。ここもやはり熱い都市の中で息づく一級の凍れる音楽だ。


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▼ コメント(4)

うーん!すごい!
ここまで斬新なデザインを押し進められる勇気はあたしにはないなあ。
あたしも歌謡曲タイプです。(笑)
って事はまだあたしの中で物事の善し悪しを判断できる力がないから、とも言えるかもしれないですね。
もっと自分を磨かなければ。

まい泉
あたしも大好きです。
あの空間も好き。
近頃ではデパートでまい泉のトンカツ弁当が食べられる様になりました。
けどやっぱ、あの空間で食べたいですよね。

ああ、
よだれがたれてきた....。じゅる

>デザインを押し進められる勇気

そうなんですよ。勇気です。
世の中を見つめる勇気。自分を見つめる勇気。自分に嘘をつかない勇気。そんな勇気があれば他のことなんて、たいしたこと無いとも。

>自分を磨かなければ。

自分を磨くって、自分のことを好きになって、もっともっとよく知るということかもしれませんね。

>あの空間で食べたいですよね。

斬新で先鋭的な音楽もあれば、心に染みいる普段着の音楽もありますよね。どっちも受け入れる度量と好奇心が・・・。あそこのトンカツ美味しいですよね。

今回ネットワークの引っ越しのをコンサルしたんですが、ついでにと内装のデザインをやることになっちゃいまして、すこ〜しだけやりましたが・・・いやはや、むずかしいですねぇ〜w
階段の塗装にちょっといたずらをしましたので、今度写真を撮ってきます。
建築畑の方に評価してもらえらたらうれしいかも^^;
基本的に向いてないって感じがするな、俺様w

プロって、失敗の経験も成功の数ほど持っていますからね。
アマとプロの違いはその辺でしょうね。

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