やはり同じ建築設計事務所を構えるものとして、この事件について触れないわけにはいかないだろう。
一個人設計者として、あくまでもプライベートな私見として考えてみたい。

まず、この事件を知った瞬間に感じたことは『うへぇ。よくそんなことやったもんだ』ということと『組織ぐるみの犯罪だな』という2点。

設計事務所の社会的な役割は、公的な財産でもあり私的財産でもある建築をつくるということ。建て主が個人であっても、現実社会に出現すればそれは地域や社会の財産になってしまう。最小単位の個人住宅からはじまり、マンション公共施設にいたるまでどんな発注形態であろうができあがると地域の財産になってしまうのだ。意識しようとしなかろうと社会的な影響は大きい。
建て主からデザイン的な視点よりもコストを優先しようといわれても、地域財産として考えるときに譲れない場合がある。そのことを常に意識していないと、結果として建て主が恥ずかしい思いをしたり、今回の事件のように多くの関係者に生命の危険を感じさせてしまったりするのだ。

個人住宅の設計の場合、お金を出す人と建物を使う人が合致しているので設計やデザインの視点がぶれにくい。お金を出す方も真剣、それに応える方も真剣勝負。しかし、今回の事件のマンションの場合などは事情が少々異なってくる。
それは、建築が世の中に出現するまでにかかわる人の中に使い手が存在しないのだ。最終的にお金を出してそこに暮らす人が存在しない中で企画され、設計され、工事される。どういうことかというと、つくりて側の都合だけで進められていくのである。そこには道徳や社会倫理よりも第一に経済性が優先されてもなんらおかしくないのである。つまり、金儲けに群がるものたちが造り上げる建築なのである。
その金儲けに群がる人たちの中に、建築ってできあがった瞬間から社会の財産になるんだという意識を持つ人が一人でもいたら今回の事件は未然に防げたのではないだろうか。
通常は、だれかがどこかの時点でそれを察知してシグナルを出すものだ。最低でも確認申請の時点で、それを察知し是正させるのが本来の姿だ。

また、今回は姉歯構造設計事務所だけが悪者になっているように報道されているが、かかわった組織全体が責任を持つべきだと考える。建築設計は、おおまかに意匠(デザイン)設計、構造設計、設備設計に業務がわかれるものである。しかし、構造設計者がコストを削減しようと構造体をいじれば、意匠設計者なり、設備設計者が「おかしいぞ?」と気づくはずなのだ。今回はその意匠設計者や設備設計者は、建設会社の人間らしいので自浄作用は働きにくかったのだろう。誰も雇われの身で、給料をくれる自分の会社のマイナスになるような意見は言いにくい。そうであってはならないのだが、それが現実社会だろう。

報道陣に囲まれてインタビューに答える姉歯氏の態度を見ても、自分一人がやったことという意識はほとんど無い。みょうにさばさばしていて、きょとんとしている。なぜ?なぜ、自分だけ?それはないだろう。とでも言いたげだ。
建築家って、社会に対して自分の職能を通じて、問題提起それの解決案を提案していくのが本来の姿だ。姉歯氏がそれを察知して、建築を通じて群がる金儲けシステムにアンチテーゼを突きつけたとしたら、大きな意義があると思う。マンション開発の金儲け、それを請け負う工事業者の金儲け、ざるの民間の検査システム、それぞれに『それでいいのか!』という意思表示。
しかし、結果として多くの何も関係ない人たちを巻き込むことでそれを言おうとしたのなら精神的にかなりいかれている。きっと、そんなことは何も考えていなくて、ただただ金に群がって仕事が来るようにすりすりしただけなのだろう。

しかし、この事件の根は深いと思う。
そして、氷山の一角だとも思う。
街を歩いていて、プロから見ておかしな現場が多いからだ。

▼ コメント(6)

>街を歩いていて、プロから見ておかしな現場が多いからだ。
怖い....(汗)

建物に関わらず、衣食住に関わるすべて、全うなものが売り買いされているのか判断が難しいですね。

自給自足をしていた時代は、自分自身が作り手なわけだから、善し悪しの判断はできていたんでしょうね。
それが作る事をしなくなった事で”もの”の価値の読み方が分らなくなっちゃったのかなあ。

建築現場が好きで、犬の散歩のついでによくながめてます。
どれも素敵な家に見えてしまう、わたしであります。

こんちわ、お久しぶりです。
こんなの絶対、施主もつるんだ共同謀議ですよ(爆)
後先考えない欲呆けばかりが、よく集ったもんですわ。
役所の節穴につけ入って、こんな事ばっかりやってると
終いにゃ自身に降りかかってくるんだけどね・・・

りんさんへ

>怖い....(汗)
職人さんレベルになると、建築法規知らないから工務店の監督のレベルで現場が決まることが多いですね。だから設計者が第3者の視点でチェックするんですよ。そんな目で現場を見ると『?』となるところが多いです。

hachibeiさんへ

全容が見えて来ているようですね。やはり誠実にやっている者が報われる世の中じゃないとおかしいですよ。安いモノには仕掛けがあるもの。うまい話はないもの。特に建築ってマジックができない世界ですから。安いモノは安い理由がある。そう思ってかからないと買った人も泣くことになります。

こんにちは。大変ご無沙汰しております。自分のブログでも姉歯氏は注目しておりまして(ネタとして)(爆) やはり、同業の方としてはいろいろと考えられることも多いのでしょうね・・・・。 久しぶりに、春呼ちゃんのお父様のブログを自分のブログで取り上げさせていただきました。また、春呼ちゃんの近況なども教えていただければ幸いです。。。

おっひさしぶり。あれっくすさん。
まだ、この記事を書いた時点では、耐震偽造事件じゃないんですよね。姉歯事件なんですよ。その後、ちょっとずつ事件タイトルが変わっていきましたね。今では、偽装大事件ですものね。
カツラや離婚やら…、シカやらクマやら、いろんな話や登場人物が出てきますね。ホントのことを言ってるのは、姉さんだけなんだろうな。

ところで、春呼はすっかり元気になりました。寒天ダイエットは好評のようでいまだに続いています。人間だったらとっくに止めているだろうけど…(爆

姉歯もと建築士の奥さんが投身自殺したことは、言葉が出ない。
一番守らなければならない人のために、盲目的にやったことが最悪の結果となることに想像力が欠落していたのだろうか。
しかし、一番悔やんでいる人は、奥さんを亡くした姉歯もと建築士ではなく、彼の関わった物件を購入した人あるいは間接的ながら彼の腕を買った人たちだろう。
彼を利用した人たちはそれなりの罰を受けるのがふさわしい。

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